大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)3014号 判決

精神分裂病の発病の原因は、未だ医学上解明されていないが、一般に患者の右病気になりやすい素質が要因となり、これと本人の身体的な原因および心理的または社会環境的な原因とが複雑にからみあって発病するに至るものと考えられていること、従って交通事故のような外部的原因によって与えられる精神的衝撃が発病の切掛けとなることもあり得ないわけではないが、一般にはむしろこのような特別の切掛けなしに発病することの方が数の上では多いとされていること、この病気は、一六、七才から二二、三才のいわゆる思春期から青年期はじめの者の発病が圧倒的に多く、患者の発病前の性格は、無口で、おとなしく引込思案で内攻的であり、また神経過敏であることが多くの患者に共通していること、従って交通事故と精神分裂病発病との間の因果関係の存在については、その可能性は一般的にはあまり高いものとはいえないこと、およそ以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定の精神分裂病に関する一般的な事実と、前記二において認定した諸事実とを総合すると、控訴人は性格的にはもともと精神分裂病患者に共通の素質を備えており、たまたま発病の可能性の一番多い年代に本件事故に遭遇したものというべく、控訴人の精神分裂病罹患と本件事故との間にはなにらの因果関係もないとは断定できないことは明かであるが、さればといって、控訴人の罹患が本件事故に因るものと断定し得ないことはもとより、被控訴人において控訴人の罹患と本件事故との間に因果関係が存在しないことについての挙証の責任を負うべきものともなし難いのである。また、一歩を譲って、本件事故が控訴人の精神分裂病発病の切掛けをなしたものと仮定しても、上述したように精神分裂病においては、患者本人の性格的素質が発病の要因をなしており、特別の精神的衝撃を受けるようなことなくして発病する場合の方がむしろ多く、一般的に言って交通事故と精神分裂病の発病との間の因果関係の存在の可能性は余り高くないことにかんがみれば、交通事故が切掛けとなってその事故の被害者が精神分裂病になるというようなことは一般的には予見不可能なことであり、本件においても、被控訴人が控訴人の精神分裂病罹患を予見し、又は予見しえたと認めるべき証拠はもとよりないのであるから、本件事故と控訴人の精神分裂病罹患との間には、被控訴人をして控訴人が罹患によって被った損害の賠償をさせることを相当とするようないわゆる相当因果関係は存在しないものと解すべきである。

(平賀 石田実 安達)

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